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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(オ)200号 判決 1954年1月21日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

上告理由第一点 原判決が本件県議会議決はいわゆる行政庁の処分ということを得ないと判示したのに対し、論旨は本件議決は行政処分であり行政訴訟の対象となることができると主張するのである。

しかし、一般的な原則論としては、地方議会である県議会は、普通地方公共団体である県の意思決定機関であつて、県議会の議決すなわち県の意思決定そのものは、それ自体として外部に対し意思が表示されるものでもなく、従つてまた外部に対して直接法律上の効果を及ぼすものでもない。意思決定機関の意思決定である議決がまずあり、この議決に従つて執行機関である知事が執行することによつて、外部に対し県の意思が表示され、外部に対してはじめて法律上の効果を生ずることとなる。それ故、議決そのものは、行政庁の処分すなわち行政訴訟の対象となる行政処分ではなくして、知事が行政庁として行う行政処分の前提要件たる関係を有するに過ぎないものと言わなければならぬ。そして、本件議決については、昭和二三年法律一七九号(地方自治法の一部を改正する法律)附則二条五項において、「都道府県知事は、当該都道府県の議会の議決を経て、市町村の廃置分合又は境界変更を定め」ることになつているから、本件県議会の議決はそれ自体行政処分ではなく、知事が行政処分を行う前提要件をなすに過ぎないのである。

論旨は、地方自治法一七六条においては、知事が県議会の違法な議決に対して出訴することのできる途を開いていることを援用して、県議会の議決は行政処分であるとの論証をしようとしている。しかし、これは県議会の議決が行政処分だから出訴ができるとされたのではなく、違法な議決がそのまま執行されることのないように行政機関相互の間における法律的見解の相違を調整するがために、特別の規定を設けて出訴を許したに過ぎないものである。それ故、かかる特別の規定の設けられていない本件議決に対しては、所論とは異り出訴は許されないものと言わねばならぬ。そして、逆にかかる規定が現存していることから見ても、県議会の議決が直ちに外部に対して効力を有する行政処分となるのではなく、知事が再議に付するか、出訴するかの考慮ないし手続を経て、執行機関として執行することによつてはじめて行政処分となることを理解することができるわけである。さらに、所論は、東京高等裁判所の判例を援用して、地方議会の議決は行政処分であり、行政訴訟の対象となることができると主張している。しかし、右判例における地方議会の議決は、地方議会議員の除名議決であつて、本件におけるがごとき通常の議決とは異り、執行機関による行政処分は行われず議決自体で除名の効力を生ずるものであり、従つて行政処分たる性質を有するのである。それ故に、所論は採ることを得ない。

同第二点 所論は、原判決が本件議決を上告人等が主張するように行政庁の処分と解するとしてもその取消を求める本訴は訴の利益を欠き不適法であるとした仮定論に対する非難である。しかし、前述のごとく本件議決は、行政庁の処分と解することはできず、本訴は根本において許されないものであるから、論旨は採ることを得ない。

同第三点 所論は、原判決が被告に対して再議を命ずる判決を求めることは本来許さるべきでないと判示したことを非難する。しかし、前述のように本件議決そのものが行政処分でなく訴訟の対象となり得ない以上、裁判所が県議会に対し再議を命ずることができないのは当然であつて、論旨は理由なきものである。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、全裁判官の一致をもつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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